表現の自由に巨大な一石 「サイバー侮辱罪 」
人気女優の自殺を機に規制の立法化
10月2日、韓国の人気女優チェ・ジンシルさんが自殺した。悪質でしつこいネットの書き込みに悩んだためと伝えられた。彼女の死を多くの国民が哀悼し、この盛り上がりを背景に、韓国政府は悪質な誹謗中傷とわかる書き込みについては、被害者からの告発がなくても警察または検察が捜査できるようにする非親告罪の「サイバー侮辱罪」を導入する準備を始めている。
韓国では人口の77.1%、10〜30代では98〜99.9%がインターネットを利用し、そのうち72.8%が書き込み自由なインターネットで書き込み自由な新聞を読んでいる。無責任な噂やウソが真実になって流布される危険性は高いのが現状である。
不十分な規制の現行法
現在でも「情報通信網利用促進及び情報保護に関する法律」によるサイバー名誉毀損罪と、「刑法」の侮辱罪を適用して、悪質な書き込みを処罰することはできるが、どの程度の精神的苦痛や実害を与えたを認定する基準は曖昧にならざるを得ない。そのため、量刑は7年以下となっているが実際には5〜10万円の罰金刑で終わることが多く、抑止効果は上がっていないのが現状である。この法律とともに韓国では実名を確認しないと何も書き込めない仕組みになっているが、その制度ができてからのかサイバー名誉毀損の届け出2005年に3662件、2006年に4005件、2007年に4856件と件数は減るどころか増えるばかりであるという。強権による抑止効果が求められる理由にもなっている。
サイト運営者にもペナルティ
さらに サイト運営者の責任を拡大しようとする動きもある。書き込める場所を営利目的で提供しているからには、掲示板やコメントをしっかり管理する義務もあるとの立場で、プロバイダー免責を最小限に抑えようとしたり、ポータルサイトに言論機関としての責任を負わせたりする方向へ議論が進められている。プロバイダーが違反で罰金を3回課されたときはサイトを強制閉鎖できるという規制の強化も用意している。米国牛肉の輸入制限解除の反対運動がネットを通じて拡大したこともあり、イ・ミョンパク政権はポータルサイトをコントロールしようという意図もあるとの観測もある。
日本でも言論抑圧の動きに注視
しかし、司法の判断によって一方的に捜査、逮捕されるとなると、基準は曖昧であつても拘束力は大きくなる。さらに、表現の自由と誹謗中傷の言論とをどう線引きするかも難しいところである。と同時に基準が曖昧である方が自主規制が期待できると言えるし、時の政権が気に入らない言論抑圧に利用される恐れも高い。そうしたことから野党の民主党はサイバー侮辱罪に反対しているが、与党ハンナラ党は成立を強く支持しているという。
インターネット先進国とも言える韓国で、なぜ表現の自由を危うくするはどの規制が必要になるのか。民主主義に根ざした市民社会が確立していないことだろうか。他人への思いやり、寛容さ、価値観の多様さを認め合う風土が成立しないままに、テクノロジーの利用(乱用)が先行していると見るしかないだろう。その点、日本もインターネットの悪用は決してほめられた状況ではないが、韓国社会の方が悪用がより広く、より激しいといえる。日本でのウルトラ保守政治家の言動も、その偏狭さ、デマゴギー性、悪辣さでは韓国のインターネットの負の部分が日本でも成立する可能性を十分に持っているというのは蛇足だろうか。
「僕は大学に行くために戦争にいった」
−イラク帰還米兵アッシュ・ウールソンさんと 語るつどい−
今夏8月4日から全国縦断「講演キャラバン」をはじめたアッシュさん。
28日午後には河内長野市・千代田高校での講演を終え、
夕刻にはわたしたちが共催した「アッシュさんと語るつどい」で
25回目の講演を行ないました。
みずからの体験を話し平和を語ることは、
もっとも忘れたいはずの辛い記憶を思い出すことでもあるという。
この日彼は、重なる疲労とPTSDの症状に悩まされながらも、
平和への願いをこめたメッセージを届けてくれました。
共催グループ(5団体・グループ)のメンバーである、
西谷文和さんがまとめてくださったリポートを載録しました。
(08.8.28 於:大阪保険医協会M&Dホール)
イラク戦争に従軍
近年アメリカは経済的打撃を受けています。大学に行ける家庭でさえ
ダメージを受けているので、軍に志願すれば学資が受けられるというのは
大きな魅力になります。わたしは平和を愛する家族のなかで育ちましたが、
それまで平和の意味や価値についてよく考えたことがありませんでした。
2003年2月、イラク戦争が始まる1ヶ月前に電話連絡で「部隊がイラクに
派遣されるようだ」と知らされ、5月に派遣されました。
米軍は私たち兵士に、「イラク人を人間と思わないように」するための教育を
施しました。私たちはイラク人を「ハッジ」と呼びました。これは戦前、
日本人を「ジャップ」と蔑称で呼んだのと同じです。9・11テロは
イスラム教徒がやったもので、イラク人は敵だと教えられました。
米軍は戦争を正当化します。イラク戦争は道徳的な軍事介入であり、広島・
長崎への原爆投下も、真珠湾攻撃の報復も正しい戦争だったと教育されました。
イラクでの体験から
イラク南部のナシリーアという町に1年間ほど駐留したときのことです。
上層部から、「軍用車に向かってくる子どもたちは、手榴弾を投げてくるかも
しれないから、近づけないように」という命令がありました。
それでパチンコを米国から送ってもらって、近づいてくる子どもに
石を当てる兵員が出てきました。立派な大人が、6歳にも満たないような
子どもたちに、石を当てて笑いあっているのです。たいていの場合、
そんな時でさえ、別の兵士は子どもたちに銃口を向けていました。
私はこのシーンが脳裏に焼きついてしまったので、帰国後ベトナム戦争
帰還兵にこの話をしました。すると彼も、ベトナムで同じようなことをした
というのです。けれど、イラクでは実際に、子どもたちが米軍に対して
手榴弾を投げるという事件は、ただの一件も起きませんでした。
ベトナムでもなかったのでしょう。
米軍の占領は5年も続いています。イラクではこの戦争で約100万人もの
民間人が殺されてしまいました。家を失った難民は約500万人です。
米兵は4300人亡くなりました。
衛生状況が悪く、子どもたちはコレラで死んでいきます。薬があれば簡単に
治癒するのに……。失業率は60%です。食べることも、仕事に就くことも
絶望的な状況です。この状況を作り出したのは、米軍の侵略戦争で
あることは明らかです。
またスンニ派、シーア派の内戦状態に陥っています。米軍が内戦を作っている
のです。戦争当初、米軍はおもにスンニ派を攻撃し、シーア派に武器と
資金を援助しました。しかしアルカイダがイラクに入国し、テロをくり返し
たので、しだいにスンニ派と米軍が協調を始め、スンニ派地域からアルカ
イダを一掃するため、米軍から武器と資金を受け取りました。スンニ派、
シーア派ともに、米軍から武器を供給され、たがいに争うようになったのです。
帰還米兵の苦しみ
私自身、PTSDに悩まされています。
イラクで経験したことと、アメリカでの日常生活のギャップが埋まらない。
アメリカのホームレスの3人に1人は帰還兵です。うつ病になり自殺する人も
多い。1日に平均17人もの帰還兵が自殺しているんですよ。異常な数字です。
イラク戦争で学んだことは、「利益を得た人は誰もいない」ということ。
イラク人も米兵もみんな何かを失っている。それが大きすぎました。
得をしたのは軍産複合体、つまり武器商人だけ。軍需産業と石油産業ですね。
アメリカ経済は落ち込んでいますが、戦争・石油関連の企業は業績をのばし
ています。ハリバートンという石油関連企業は、チェイニー副大統領が
CEOを務めていましたが、売り上げを急増させています。ライス国務長官
もシェブロンという石油企業の役員でした。シェブロンの石油タンクには
「コンドリーザ」という名前がついているものもあります。(コンドリーザ
はライス国務長官のファーストネーム)
何よりブッシュ大統領自身がテキサスの石油会社を所有していました。
イラクに従軍して失ったものはあまりに大きかったけれど、そのおかげで
反戦・平和活動家となり、日本に来て「ピースウォーク」に参加し、
いまこうして「講演キャラバン」を続けています。
武力では平和を守れないということを確信し、日本の憲法9条の素晴らしさを
実感しました。貪欲な支配者は、戦争をすることで利権の拡大を狙っています。
けれど、9条の考えを世界に広げていけば、いつか私たちの側が勝利する
だろうと思います。平和な世界が実現することを夢見て、精一杯がんばります。
<プロフィール>アッシュ・ウールソン(26歳・シアトル在住)
ウィスコンシン州ラインランダー市生まれ。父は煙突掃除夫(ベトナム戦争
時に徴兵を拒否し、アジアで禅寺の僧侶になった)。ウィスコン大学在学中、
学資返済のために「州兵」となり、2年間イラクで従軍。市民を犠牲にする
戦争の現実を目の当たりにし、帰国後「反戦帰還兵の会」に参加。
今年5月に開催された「9条世界会議・ピースウォーク」で
広島から千葉までを歩き通した。
『しなやかな平和のつばさ−武力は無力!平和に生きよう笑顔のネット♪』
メールマガジン 2008年9月14日号より転載 *ホ−ムページ:http://www.sakai.zaq.ne.jp/dubhw208/
「宇宙軍拡」 「軍需産業拡大強化」を許すな
「宇宙基本法の監視を」とアピール
宇宙開発戦略本部」発足に当たって 国民に訴え
世界平和アピール七人委員会は、26日午後、池田香代子、小沼通二両委員が記者会見し、27日に内閣府の「宇宙開発戦略本部」が発足するのを前に、「『宇宙基本法の監視を』−国民に訴える」とのアピール(全文参照)を発表した。
七人委員会は昨年11月、「宇宙基本法案の再検討を」と題するアピール(参照)を発表、各方面に訴えかけてきた。ところが、同法案は、当初、与党案として提出されたものが突然撤回され、与党、民主党のプロジェクトチームによる協議による民主党を含めた形の議員立法として提出され、わずか2週間、短時間の審議でほとんど国会での論議がないまま、両院を通過し成立した。これに基づき、戦略本部発足へと進んできたため、「宇宙空間を平和利用に限る原則を改めて国民に訴えたい」とアピールを発表することになった。
記者会見で、池田委員は衆院の審議記録を手に、「たとえば衆院ではわずか2時間の審議で、可決されている。与党案と変わったのは『日本国憲法の平和主義の理念を踏まえ』という言葉が入っただけといっていい。審議はプロジェクトチーム同士が話し、まるで『おしゃべりの場』のようで、印刷しても25枚にしかならない程度のひどいものだ。産業が軍事に傾けば必ず衰退する。産業界にとってもプラスではない。本質的な問題を捉えて踏みとどまってほしい、と本当に思う」などと述べた
アピール
「宇宙基本法の監視を」― 国民に訴える
2008年8月26日
世界平和アピール七人委員会
委員 武者小路公秀 土山秀夫 大石芳野
井上ひさし 池田香代子 小沼通二 池内了
宇宙基本法案が今年5月21日に国会で可決され、成立しました。私たち世界平和アピール七人委員会は、昨年11月に、自民・公明両党の議員が提出した法案に対して「宇宙基本法案の再検討を求めるアピール」を発表しましたが、このたびの法律の成立過程および今後の運用について危惧の念を消すことができないので、宇宙開発戦略本部発足の機会に改めて国民の皆様に訴えたいと思います。
まず、この法案審議の異様さに注目したいと思います。昨年提出された自民・公明案は一度も審議されることなく、5月9日の衆議院内閣委員会において理由の説明がないまま撤回され、ただちに自民・公明・民主の三党案が提出されました。そのまま2時間ほどで委員会審議が終了して可決され、4日後には衆議院本会議で一切の審議がないまま採決されました。続く参議院の内閣委員会でも実質2時間ほどの審議だけで可決され、提出からわずか2週間で、参議院本会議で採決・成立という速さでした。このように急ぐ理由は何も説明されず、私たちの意見を含めた国民の声にこたえ、現在と将来の国民に責任をもって決定する姿勢がまったく見られませんでした。
この法律は、これまで専ら平和利用に徹して「非軍事」を掲げてきた日本の宇宙開発を、軍事利用を目的としたものに衣替えしようという狙いが明白です。具体的な例を挙げれば、日本の宇宙開発を進めている宇宙航空研究開発機構(JAXA)を規定する法律(宇宙航空研究開発機構法)の第4条には「平和目的に限る」と明記されていて、成立時の国会審議において、これは「非軍事」だと確認されてきました。ところが、今回の参議院での審議の中で、「非侵略」と変更された機会に当然見直しが行なわれると提案者が明言したのです。「非軍事」の研究開発機関の存在自体を許さないという重大発言が、なんら深められることなく国会で認められている怖さを感じます。
基礎研究を無視した目的研究だけでは健全な開発を実現させることはできません。ましてや、他国並みの防衛力を求めることは、際限ない宇宙の軍事予算拡大を認めることにつながります。防衛目的と攻撃目的は分けられるものでなく、防衛力強化は、攻撃力強化を誘発することは歴史が示しています。宇宙軍拡への道なのです。私たちは、日本の産業の健全な発展を願うものですが、安全保障を軸とした研究開発への動員と軍需産業の拡大強化には同意できません。
今後、この基本法を基礎にして、具体的な運用のための法律が提案されることになっています。私たちは、私たちを含めた国民が、「日本国憲法の平和主義の理念を踏まえ」と書かれているこの基本法の運用方針をよく検証し、あくまで宇宙利用が平和憲法の原則から名実ともに外れることがないよう厳しく監視していくよう訴えます。
アピール
日本政府は
米印原子力協定に反対を
2008年8月6日
世界平和アピール七人委員会
委員 武者小路公秀 土山秀夫 大石芳野
井上ひさし 池田香代子 小沼通二 池内了
私たち世界平和アピール七人委員会は2006年6月21日、当時の小泉総理あて、ブッシュ大統領との会談において「米印間の原子力協定について日本も賛同するように」との要請があっても、受け入れることのないよう要望書を提出しました。
その後、インド国内の政治的事情によって協定は実現を見ないまま、経過していました。ところが最近になって、インドの国会で協定調印への環境が整えられたことにより、実現の可能性がにわかに高まってきたことが伝えられています。
私たちが前回の要望書でも指摘した、インドが核兵器不拡散条約(NPT)の発足当初から不平等を理由に加盟せず、国際世論を無視して核実験を行い、公然と核兵器保有国になった事実はその後何一つ変わっていません。このような状況の中で、NPT加盟国である米国がインドを有力な原子力市場であるとみなし、また対中・対イスラムの同盟国ともみなして、インドに対してNPTの加盟を促さず、例外扱いとして認めようとすることは、NPTの基本理念に反する行為であることは明白です。それと同時に、イランや北朝鮮の核開発を阻止しようとすることとも矛盾します。しかも日本など45カ国からなる原子力供給グループ(NSG)の全会一致の承認が得られにくいとみなすや、米国はその規定の変更を試みようとさえしています。
私たちは、広島への原爆投下の日に当たり、被爆国である日本の政府がこうしたNPT体制の崩壊につながりかねない米印原子力協定に対して、インドがNPTと包括的核実験禁止条約(CTBT)に加盟することを前提条件としない限り、賛同できないむね、米国政府とインド政府に強く訴えることを要望します。
【マスメディアをどう読むか】
犯行の引き金は「誤解」ではなかった!?
続・「秋葉原通り魔事件」に見る 青年の孤独
丸山 重威
「秋葉原通り魔事件」
について、論議は続いている。しかし、問題は少しずつずらされ、両刃のダガーナイフの所持を禁止する方向が提案されたり、相次ぐネットへの脅迫まがいの書き込みを
「業務妨害罪」 で立件するなど、「安全・安心の街作り」
のための政策は次々と打ち出されているが、一方で、より本質的な問題である「製造業への派遣労働」には手を付けず、「日雇派遣禁止」
の方向をちらつかせるだけでお茶を濁している。
しかし、この事件をめぐる具体的な事実、とくに彼の働き場であり、挫折を繰り返してきた青年労働者・加藤智大に、希望を与えることができなかったトヨタの主力工場、関東自動車の実態については、その後全くと言っていいほど報じられていない。
加藤容疑者への 「共感」 と見えるものさえ、散見されると言われるネットの書き込みは、それが行き過ぎれば 「犯罪」 であることは事実だとしても、「労働実態の告発」
もあるとすれば、軽視するわけには行かない。その意味で、メディアに求められるのは、詳細な 「事実」 の発掘であることは、昔も今も変わりはない。
▼彼は 「解雇通告」 されていた 現場を訪ねたことが明らかになっている数少ないルポの中で、「週刊金曜日」
6月27日号の横田一レポート、「派遣先自動車工場での容疑者の日常」
は、これまでの報道の中でわれわれの頭にインプットされた事件の概要が、実は大きな間違いをはらんでいたのではないか、ということを指摘してくれている。
つまり、われわれが報道によって認識してきている 「事実」 は次のようなものだった。
子ども時代は優秀だったが、進学校で挫折した。自動車整備工を目指して短大に進んだが、結局目的を果たさないまま故郷に戻る。だが定職に就けず、転職を繰り返し自動車工場の派遣工へ。期間工から正社員への道どころか、また解雇、転職か、と夢が壊れたと思い、絶望した。
200人の派遣工のうち150人を解雇する方針が出され、何人かずつ上司に呼ばれて計画が伝えられた。彼については解雇者には入っておらず、たまたま門の所で遭った派遣会社の社員に
「君は大丈夫だよ」 と立ち話で伝えられた。しかし、事件直前の6月5日、出勤したところ、なぜか彼の 「つなぎ」
の作業服がなく、それで荒れて、会社を出ていってしまった。継続が決まっていたのに、作業衣がなかったことで、解雇されたと思い込んだ…。
だからわれわれは 「切れやすい子だったんだなあ」 と思い、そんな彼に育て、結局、守れなかった社会を考えた。しかし、横田レポートが伝えている 「事実」
は衝撃的だ。 つまり、@ 彼は解雇通告されていた A 「つなぎ」 は彼が 「ない」 と早合点して騒いだのではなく本当になかった B
そのとき、同僚が上司に 「説明してやって下さい」 と伝えても、上司は誰も説明せず、止めることもしなかった−というのである。
横田レポートを引用する。 「秋葉原殺人事件三日前の六月五日早朝、トヨタの子会社 『関東自動車工業』 (静岡県裾野市)
で加藤容疑者が暴れ出した。『つなぎがない。いらなくなったら (首を) 切るのか』
と叫びながら、職場仲間のつなぎをぶちまけ始めたのだ。同僚のT氏は、すぐに上司に訴えた。『止めてもらえませんか。解雇通知を受け取り、精神的の動揺して暴れているのです』」
「しかし上司は止めなかった。『君は解雇されない。延長の予定だから誤解するな』 となだめることもしなかった。T氏はこう振り返る」
「『加藤容疑者の夢は正社員でした。 《いまは派遣社員だけども、そのうち期間工になって、正社員になるんだ》
と話していました。でもその夢が解雇通知とつなぎの件でうち砕かれた。加藤容疑者にも解雇通知は来ており、ショックを受けていました。会社は
《加藤容疑者は延長する予定だった》 と事件後の記者会見で説明しましたが、それなら、なぜ暴れたときに伝えなかったのですか』」−。
取材に応じたT氏は、横田記者に 「つなぎ (作業服) 本当になかった。現場にいた者としてはっきりいえます」 とも語っている。
▼「全員解雇」 の中での 「選別」
偽装倒産事件などでよくあるのは、いったん全員を解雇して、その中から会社に忠実な、問題を起こさないものだけを採用するやり方である。労働者の働く権利など完全に踏みにじったやり方だ。しかし、その方法が会社にとって、労働者の 「選別」 をしやすい方法であることは言うまでもない。
かつて、国鉄の分割民営化では、反対する国労組合員に対してこの方法がとられたし、いままた社会保険庁の廃止・民営化で同様のことが語られている。「組織替え」 という名の労働者の 「選別」 であり、「物言わぬ職場」 作りの方策だ。
しかも、一般正社員で、労働組合に組織されている労働者であれば、闘う方法もあるだろうが、借り上げのアパートに住まわされている派遣工は、いまの派遣先を 「クビ」 になれば、住んでいる場さえ明け渡さなければならず、生活の場も奪われてしまうのだ。
その 「選別」 に異議を唱えることなどできず、派遣会社がどこかほかの派遣先を見つけてくれれば幸せ。そこに行く以外、方法がない。
今回の事件で、伝えられている派遣工200人中150人の大量整理についても、なぜそうしたことが行われるのか、「解雇通告」 がどういう形で行われたか、の報道はない。「何人かずつ集められ、『解雇されるものがある。6月末まで頑張ってくれ』 と言われ、本人も落ち込んだ」 という趣旨の報道しかない。
枚数の関係かもしれないが、横田レポートにも、賃金などの労働実態は取材されているが、150人解雇のやり方や、会社が何をしようとしたか、いまどうなっているか、の記述はない。関東自動車には、6月5日に、上司はどういう行動を取ったのかを含めて、なぜ150人合理化が必要だったのか、生産体制をどう変えたのか、明らかにする責任があるのではないだろうか。
6月5日早朝、「つなぎ事件」 で職場を飛び出した加藤容疑者は、暗澹たる気持ちで一日を過ごしたに違いない。
毎日新聞6月10日付によると、「あ、住所不定、無職になったのか ますます絶望的だ」 とネットに書き込んだのは、この日の夜、6日午前1時44分のことである。ネットに書き込んでも、止める人はいなかった。朝日新聞6月21日付によれば、彼は、取り調べ官に 「初めてきちんと話を聞いてくれる人ができた」 と語ったのだそうである。
▼改めて労働現場の取材−事実報道を
彼が働いていた関東自動車は、トヨタが50%を超える株を持ち、トヨタから社長がやってくる基幹工場だ。 ベルトコンベアの中の 「労働疎外」
については、鎌田慧氏が 「自動車絶望工場―ある季節工の日記」 (1973年)
で書いている。「これは労働かもしれないが、何も作らない。作るのは機械であり、コンベアであるだけだ」―。 その時代から、「派遣法」
が動き出して、1985年、16の専門業種に限って派遣労働が解禁され、相次ぐ労働法制の 「規制緩和」 の中で、「例外」 だった 「労働者派遣」
は当然のことになった。99年に原則自由化、2004年には、製造業にも解禁された。当時の日本経団連会長はトヨタの奥田碩氏である。
横田レポートは、事件の背景にある 「派遣社員の不安定さや正社員との絶望的な格差に加え、派遣社員を部品扱いするトヨタ生産方式 (利益至上主義)
も関係しているのではないか」 と指摘し、全トヨタ労働組合の若月忠夫委員長の話を紹介している。
「一番屈辱的なのはボーナスの日。正社員だけがボーナスをもらえて、非正規社員はもらえない。欧州では、正社員でも非正規社員でも同じ仕事をすれば、給料が同じ
『同一労働同一賃金』 が当たり前ですが、日本では実現されていないのです」。 若月氏は 「『(加藤容疑者のいた) 塗装工程の検査は大変』
という報道もありますが、正確ではありません。全行程が大変なのです。私は、組み立て工程など他の工程も担当したからよくわかりますが、『大変』
ではない工程なんか、この工場にはありません」―。
彼が置かれていた状況と犯罪に至る心理は、これまでの報道が示すように、解雇はされないのに勝手に解雇されると思いこんだ 「誤解」
だったのか、横田レポートが示すように、実際に 「解雇通告」 を受けたあとのショックだったのか、あるいは、自分が 「選別過程=まな板の鯉」
状況に置かれていることを知ったためだったのか―。 このことは、犯行に至る彼の心理と、事件の持つ意味を考えれば、格段に違いがあるのではないだろうか。
また、「つなぎ」 はなぜ、規定の場所になかったのか? まさか、労働者のふるい分けのための 「テスト」
が行われたわけではないだろうが、暴れる彼を止めなかった 「上司」
は、もしかして、つなぎがそこに置かれていないことを知っていたのではないか? 「彼は荒れるかもしれない」
と読み込み、解雇の材料にしようとしていたことはなかったか? これは 「勘ぐり」
である。しかし、若干の労働組合の取材を経験したことがある私から見れば、そんなことがあっても、「クビ」
の数を合わせる数あわせに窮々としている派遣工管理の下級労働者 (そう、彼も労働者なのだ!)=横田レポートの中で言われている
「上司」=がそんなことを考えても、全く不思議ではない。「労務管理上必要」 なのだ。
▼若い記者とジャーナリストに期待する そして、新聞。いままで多くの読者は、加藤容疑者について、「誤解した結果の暴発」
と思っているはずだ。 しかし、横田レポートによって明らかにされたのは、読者のこの 「誤解」
を解くために、極めて重要な事実ではないか。私は、もう一度、「改めて現場を」
とまた言いたい。もし、読者が得ている印象が間違っているなら、それをただす責任が記者にはある。裾野市は、中央紙で言えば、静岡支局の管内、三島、沼津、あるいは御殿場通信部か、そんなエリアの担当だろうか。記者は決して多くないし、忙しい。しかし、この問題を明らかにしてほしい。
精神鑑定で心神耗弱などが認められれば別だが、7人も殺したら、いまの状況では死刑は間違いないし、「誤解」 が元でも 「クビ」
が元でも大した違いはない。情状で変えられる部分はまずないからね…、と法律家は言うかもしれない。
しかし、ジャーナリズムの論理は違うはずだ。この事実の究明こそ、新聞の責任だ。
ひとつ、心に残った記事のことを付け加えておこう。
毎日新聞が7月17日付で、神澤龍二記者の 「記者の目」
を載せている。29歳で同世代だと感じる神澤記者は、東京から裾野の関東自動車を訪ねて、加藤容疑者の元同僚に話を聞き、自分の体験を通じてこの事件を考えている。神澤記者は、加藤の
「内面」 に生育歴から迫りながら、書いている。
「私たちの世代には実はいまだに、加藤容疑者のように固定化した価値観に縛られて生きている人たちは多い。呪縛から解き放たれるため、『いろいろな価値観や職業、分野で生きる人々と本音で付き合ってみる』
ことが必要ではないか」−。 神澤記者は、自らのボランティア体験の中で自分が励まされたことを書いている。率直で、若々しく、いかにも 「記者の目」
らしい記事だ。記者は現場で学び、成長する。
ぜひとも毎日新聞にお願いしたい。現場を踏んだ神澤記者の積極的な活動を活かし、彼と共に、複数の記者を現地に入れ、徹底的な取材を積み重ね、労働現場での労働と労務管理の実態と、資本の
「非人間性」 を明らかにしてほしい。
そこが明らかになり、何かが変わらなければ、余りにも空しい事件だ。第2第3の加藤容疑者を生まないためにも、それが求められているのではないかと思う。(
2008.7.19)
(註:本記事の前編『◎連帯を取り戻し、ひとりぼっちの青年をなくそう!「秋葉原通り魔事件」に見る青年の孤独』「マスコミをどう読むか」(6.14)もお読みください。) 』
【声明】デモに対する過剰規制及び 参加者の逮捕・勾留に抗議します
2008年7月9日
サミット人権監視弁護士ネットワーク(WATCH)
7月5日、札幌市内において「7・5チャレンジ・ザ・G8サミット――1万人のピースウォーク」が開催されましたが、これに対する警察の規制は極めて過剰で、デモが平穏に行われていたことに対比して、著しく人権を侵害する態様のものでした。沿道は、デモ参加者をカメラで撮影・記録する私服の公安刑事で埋め尽され、また、デモの両サイドは、一般の市民がデモを見ることを阻止するような形で、完全装備の機動隊によって包囲されました。
しかも、警察官は、サウンドカーの窓ガラスを警棒で叩き割った上で、運転席にいた男性をひきずり出して逮捕するなど、合計4名(うち、1名は記者)を、公務執行妨害や道路交通法違反などを理由として逮捕勾留しました。
< このうち、記者であった1名は7月8日に釈放されましたが、検察官はそれ以外の3名につき、不当にも札幌地方裁判所に勾留請求し、8日に裁判所により3名に対する勾留決定がなされています。
憲法は、市民が自らの表現を他人に伝達し、他人がその表現を受け取る自由をも保障しています。この意味において、デモ行進は、集会の自由の一環として立憲民主主義を支える権利としても手厚く保障され、その規制は必要最小限度にとどまらなければなりません。
しかしながら、今回の警察による過剰規制と不当な逮捕は、表現の自由を踏みにじるものであると言わなければなりません。
よって、私たちは4名の逮捕が憲法で保障された表現の自由に対する著しい侵害であることとともに、逮捕の態様自体に極めて問題があるとして強く抗議するとともに、3名についての勾留請求決定に対し異議を述べ、その即時釈放を求めます。
〔声明に対する賛同団体〕
2008年G8サミットNGOフォーラム
G8サミット市民フォーラム北海道
G8サミットを問う連絡会
G8女性の人権フォーラム
「G8」報道の課題
「世界平和アピール七人委員会」が「北海道洞爺湖サミット参加国首脳への要望」をまとめ、各国に送り、6月27日記者会見で発表した。(http://worldpeace7.jp/modules/pico/index.php?content_id=24)
委員の井上ひさしさんらは、「先進国首脳が集まることに反対するのではない。むしろ自分たちの責任を自覚して、いまの世界の問題に真面目に取り組んでほしいのだ」と強調した。しかし28日朝刊の在京一般紙ではほとんど扱われなかった。
札幌では、同じ時期に札幌では、NGOが集まる「市民サミット」が開かれ、壮瞥町などで「オルタナティブ・ヴィレッジ」というキャンプも計画されている。北海道では書かれているようだが、東京紙には載らない。また、入管当局によるジャーナリストへの入国制限など、ほとんど載らない(http://g8medianetwork.org/ja/node/186)。
代わりに載るのは、渋谷のデモで「中核派」が逮捕されたニュース。
いま、世界はどちらに向いているのか? 「大国」の議論の陰で、高騰した食糧も買えない世界の貧困をどうするのか、「北の核」は議論しても、大国の大量所有の「核」を問題にしないでいいのか。
メディアはいつまで民間の運動を敵視し続けるのだろうか。政府はいつまで世界の民衆に背を向ける行動を続けるのだろうか。 *『憲法メディアフォーラム』(2008.7.4Vol.143 http://www.kenpou-media.jp/より転載
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